
先に答えを書きます。SNS運用は「誰か一人に任せる」のではなく、決める人・つくる人・承認する人の3つの役割に分けて配置します。兼務で回せるのは、このうち「つくる人」と日々の一次対応までです。戦略の決定、投稿の最終承認、炎上時の一次判断は、兼務者に渡さず役職者が持ちます。
前提は、従業員数が数十名規模までで、SNS専任を置く余裕がない企業です。月の投稿本数は10〜15本程度、媒体はInstagramかTikTokのどちらか1つを想定しています。媒体を2つ以上、本数を月20本以上にすると、以下の工数の目安は当てはまりません。
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役割を3つに分けると、配置の議論が進む
「SNS担当を誰にするか」で会議が止まるのは、1人に全部を背負わせる前提で話しているからです。業務を分けると、兼務でよい部分と、役職者が持つべき部分が見えます。
| 役割 | やること | 置く人 | 兼務の可否 |
|---|---|---|---|
| 決める人(オーナー) | 目的・ターゲット・予算・やらないことの決定、月次の評価 | 経営者または部門長 | 兼務でよい(月2〜3時間) |
| つくる人(運用担当) | 企画、撮影、編集、投稿、コメント一次対応、数値の記録 | 現場に近い社員 | 兼務可(工数上限あり) |
| 承認する人(チェック) | 公開前の事実確認、表現確認、リスク判断 | 管理部門または部門長 | 兼務でよい(1投稿5分程度) |
この3つを1人が兼ねると、チェック機能が消えます。つくる人と承認する人だけは、必ず別の人にしてください。役職が同じでも構いませんが、同一人物にはしない。これが最低限の線引きです。
担当者決めは人選ではなく職務設計です。3役に分け、「つくる人」だけを兼務で置き、決定と承認は役職者に残します。
候補部署ごとの向き不向きと、起きやすい失敗
どの部署に置くかで、伸びやすい内容と詰まる場所が変わります。自社の目的(集客か採用か)と照らして選んでください。
| 配置先 | 向いている目的 | 強み | 起きやすい失敗 |
|---|---|---|---|
| マーケティング部 | 集客・指名検索の増加 | 数値管理と広告の連携がしやすい | 現場素材が集まらず、広告向けの作り込みに偏る |
| 店舗・現場スタッフ | 来店促進、地域集客 | 撮れる素材が多く、更新が続きやすい | 繁忙期に止まる。シフトに組み込まないと優先度が下がる |
| 人事・採用担当 | 採用広報、応募前の不安解消 | 社員を出しやすく、質問に即答できる | 求人原稿の焼き直しになり、見てもらえない |
| 広報・管理部門 | 信頼形成、情報発信の統制 | 表現チェックとリスク対応に慣れている | 確認が多く投稿が遅れる。反応を取る企画が出にくい |
| 営業部 | 商談前の認知、既存顧客との接点 | 顧客の疑問を知っている | 数字を持つ月末に完全に止まる |
| 社長直轄(経営者本人) | 立ち上げ期、個人の発信が核になる業種 | 決定が速い。方針がぶれない | 社長が忙しくなると全停止する。引き継げない |
新卒や若手に任せる判断もよく見ます。操作に慣れている点は利点ですが、何を発信してよいかの判断材料を持っていません。若手を「つくる人」に置くなら、決める人と承認する人を必ず上位者に置き、判断を預けないことが前提です。
「手が空いていそうな人」を基準に選ぶと、半年後にその人が本業で忙しくなった時点で止まります。選ぶ基準は余力ではなく、素材への近さ(現場に接しているか)と、承認者との距離の近さです。

兼務で回せる工数の目安|週あたりに分解する
「兼務で大丈夫か」は、感覚ではなく時間で判断します。以下は当社の支援実績ではなく、作業時間を仮に置いた試算です。自社の人の速さに置き換えて使ってください。
条件:Instagramまたはショート動画を月12本(フィード8本+動画4本)、ストーリーズ週3回、コメント・DMの一次対応あり、月次の数値記録あり。立ち上げ済みで型が決まっている状態。
| 作業 | 単価の仮定 | 月の工数 |
|---|---|---|
| 企画・台本(月1回まとめて) | 2時間/回 | 2.0時間 |
| 撮影(月2回にまとめる) | 1.5時間/回 | 3.0時間 |
| 動画編集 | 45分×4本 | 3.0時間 |
| 静止画の加工・文章作成 | 25分×8本 | 3.3時間 |
| 投稿作業・ストーリーズ | 10分×24回 | 4.0時間 |
| コメント・DM一次対応 | 30分/週 | 2.0時間 |
| 数値の記録と月次報告 | 2時間/月 | 2.0時間 |
| 合計 | 約19時間/月(週4〜5時間) | |
週4〜5時間は、週40時間勤務の約1割です。ここが兼務の現実的な上限ラインになります。週8時間(本業の2割)を超えたら、兼務のままでは続きません。本数を減らすか、専任化するか、一部を外に出すかの判断に移ります。
見落とされがちなのが立ち上げ期です。アカウント設計、権限整備、過去素材の整理、最初の型づくりで、上記とは別に20〜40時間程度が先にかかります。初月から通常運転の本数を課さない設計にしてください。
- 兼務者の所定労働時間のうち、SNSに充てる時間を数字で決めて上長が合意している
- 撮影日が、シフト表や月次予定に先に入っている
- 本業の繁忙期(月末・決算期・繁忙シーズン)は本数を落とす前提が共有されている
- 就業時間外のコメント対応を行うかどうか、扱いを労務担当と決めてある
兼務者に渡してはいけない3つの業務
兼務で任せられる範囲には明確な上限があります。次の3つは、担当者ではなく役職者が持ちます。理由は、判断を誤ったときの影響が本人の権限を超えるからです。
- 戦略と「やらないこと」の決定
目的、ターゲット、使う媒体、扱わないテーマ、広告費の上限。これを担当者に委ねると、方針が人の好みに左右され、異動のたびに作り直しになります。 - 公開前の最終承認
価格、在庫、営業時間、人物の写り込み、他社への言及、効果に関する表現。最低1名、作成者以外が確認してから公開します。承認者が不在の日の代理も決めておきます。 - 炎上・クレーム時の一次判断
削除するか、残して訂正するか、謝罪文を出すか。これは担当者が5分で決める性質のものではありません。発見者は報告だけを行い、判断は責任者が持つ形にします。
特に医療・美容・金融など、表現に法令や指針が関わる業種では、承認を兼務の若手に預けないでください。医療広告の表現については美容クリニックのSNS運用で気をつける表現の記事で、承認フローの作り方まで整理しています。
炎上時の連絡先は、担当者の携帯ではなく「誰に、何分以内に、どの手段で」を紙に書いて共有します。休日・夜間に起きる前提で決めておくと、初動の遅れを減らせます。
権限とアカウントは、個人ではなく会社に紐づける
兼務運用で最も多い事故は、退職や異動でログインできなくなることです。担当者の個人メールと個人スマホだけでアカウントを管理している状態は、引き継ぎ時に取りこぼしが起きやすくなります。
TikTokでは、ビジネスセンターでメンバーを追加し、ロール単位で権限を割り当てる仕組みが用意されています。公式ヘルプでは、ロールが「基本権限」と「高度な権限」に分かれると説明されています。Instagram側も、プロアカウントに切り替えたうえで、Metaのビジネス管理ツールから人ごとにアクセス権を割り当てる形が取れます。IDとパスワードを配るのではなく、人に権限を付与する形に寄せるのが基本です。
権限の割り当ては、先ほどの3役に対応させます。
| 役割 | 与える権限の考え方 |
|---|---|
| 決める人(経営者・部門長) | 最上位の管理権限。日常操作をしなくても必ず保持する |
| 承認する人 | 管理権限(2人目の管理者として置き、1人体制にしない) |
| つくる人(兼務担当) | 投稿・返信ができる範囲。権限の付与や削除はできない設定にする |
| 外部パートナー | パートナー連携として必要なアセットのみ共有し、契約終了時に解除する |
管理権限を持つ人を1名だけにすると、その人の退職や端末紛失で復旧が長引きます。管理者は2名以上、うち1名は現場を離れない役職者にしておきます。
引き継ぎ時に確認する項目を、チェックリストにしておきます。
- アカウントの登録メールアドレスが会社ドメインになっている
- 二段階認証の受け取り先が、個人の私物端末だけになっていない
- 管理権限の保有者が2名以上いて、退職者の権限を外す手順が決まっている
- 撮影素材・編集データが共有フォルダにあり、個人PCだけに残っていない
- 投稿カレンダー、企画の型、過去の数値が社内で閲覧できる場所にある
- 外部に依頼している範囲と、その連絡窓口が文書化されている
外注先から社内へ移す場合の範囲の決め方は、SNS運用の仕事内容と成果の出し方をまとめた記事の内製・外注の判断基準も合わせて確認してください。

兼務を評価に組み込む|「がんばり」で終わらせない
兼務が続かない理由の多くは、工数ではなく評価です。本業の数字だけで評価されるなら、SNSは後回しになります。評価に入れる場合は、担当者が自分で動かせる指標に限定します。
| 指標の種類 | 例 | 兼務者の評価に使えるか |
|---|---|---|
| 行動量 | 月間投稿本数、撮影実施回数、返信までの時間 | 使える(本人が管理できる) |
| 品質 | 保存数・視聴維持率、承認差し戻し率 | 使える(ただし3か月以上の平均で見る) |
| 成果 | プロフィールからのリンク遷移、DMでの問い合わせ件数 | 条件つきで使える |
| 売上・応募数 | 店舗売上、採用応募の総数 | 兼務者単独の評価には向かない |
売上や応募数は、商品・価格・接客・求人条件など他の要因に左右されます。これを兼務者の個人評価に直結させると、達成不能な目標になりがちです。成果指標は「決める人」の目標に置き、兼務者には行動量と品質を置くのが、現実的な分け方です。
手当については、職務手当として月額で設定するか、既存の目標管理の1項目として加点するかのいずれかが一般的です。金額や支給方法は就業規則との整合が必要なので、労務担当と確認したうえで決めてください。評価に入れるか手当を出すかのどちらも行わない場合、担当者が替わるたびに運用が振り出しに戻ります。
育成の順番とスキルの積み上げ方は、店舗のSNS担当者を社内で育てる手順の記事で月単位に整理しています。
兼務で回らないとき、どこから外に出すか
工数が上限を超えたとき、担当者を増やす前に「どの作業を外に出すか」を決めます。切り出しやすい順に並べると、判断が早くなります。
- 編集だけを外に出す
撮影は社内で続け、動画編集と加工を外部へ。上の試算では月6時間強が外れます。素材の鮮度を保ちつつ、負荷を下げやすい形です。 - 撮影と編集をまとめて外に出す
撮影日の調整だけ社内で行う形。社内の負荷は企画と投稿のみになります。費用の差は撮影込みと内製撮影の費用比較の記事で分解しています。 - 企画と分析を外に出す
撮影・投稿は社内、方針と改善は外部という形。素材は多いが何を出せばよいか分からない、という段階に向きます。 - 運用全体を外に出し、承認だけ社内に残す
兼務者が異動・退職した直後など、社内の手が物理的にない期間の選択肢です。承認とアカウント権限は社内に残します。
年間でどの費目にいくら配分するかは、SNS運用の年間予算の組み方の記事に配分モデルを載せています。
当社は、体制設計と役割分担から相談を受ける内製化支援(SODATSU)と、兼務では回らない領域を部分的に引き受ける運用代行を行っています。「誰に任せるべきか」「どこまで社内で持つか」の整理から相談したい場合は提供サービスの一覧を、媒体ごとの支援範囲を知りたい場合はInstagram運用代行とTikTok運用代行のページをご確認ください。具体的な体制の相談はお問い合わせフォームから受け付けています(受付は平日10:00〜19:00)。
